今回は食欲が全くなくなったときの話です。

犬、猫が癌(がん)や腎不全、肝不全など病気がかなり進行し、
体調不良で食欲が落ちるのは十分わかるんだけれども、
大好物なものや、おやつでも何でもいいので、少しでも食べてくれれば
元気がでてくれるのに…と思うことはよくあります。
何も食べないで、どんどんやせてしまうのを見るのは、犬、猫もつらいだろうけれども
飼い主さんたちも、こちらもみんながつらくなります。
では、「何とか栄養補給をしたい」 という時にどのような選択肢があるかを
以下に記載します。

まずは口から食べ物をいれることを避ける場合。
@一番簡単で、現実的な方法は皮下補液になります。首から背中あたりに注射で
らくだのこぶのイメージでポカリスエットのようなものを入れる方法があります。
2、3分で終わりますし、1日分の水分、イオン、ビタミンや胃酸止めで胸焼け等を
抑えたり、炎症止め、吐気止め、下痢止めなどもいっしょにいれることができます。
皮下補液により脱水が改善されたり、注射の成分、特に胃酸止めや吐気止めが
効いて、食べてくれるようになることもあり、一番よくこの方法を選択します。
しかし、この皮下補液だけでは、糖分やタンパク(アミノ酸)、脂質を入れることが
できていないので、カロリー的、エネルギー的にはぜんぜん不足しています。

A血管の中にプラスチックの針を入れ、そこから1日の必要なエネルギーを
点滴で入れる方法もあります。この方法だとカロリー、エネルギー的には
@の方法よりもずっといいのですが、血管からゆっくり液体をいれるので、
@よりかなり時間がかかるため、入院の必要がでてきます。
ある時期を乗り切れればかなり回復の見込みがあるという状況なら
Aの選択も「あり」かとは思うのですが、癌などで末期の状況の犬、猫を
入院させるのはさすがに忍びなく、
当院ではこの方法を選択された飼い主さんはまだだれもおられません。

なんとか強制的に食べさせる場合。
B口の中、特に舌や、歯とくちびるの間、また、鼻の下などに
ペースト状のフードを塗って食べさせることも多々あります。
抵抗しない犬、猫にはかなり有効なのでこの方法をよく利用しますが、
抵抗する犬、猫の場合にはかわいそうなのであきらめることが多いです。

C鼻のなかに直径が2mmから3mmの管を入れる方法があります。
写真参照。管の先端が鼻の中を通る瞬間だけ嫌がりますが、
一度入るとつらくはないようです。
この写真では30センチほどしか管をいれてないので、管の先端は胃まで
到達しておらず、食道にあります。管が入るとあとは液体のフードを
管を通して一日分の必要なエネルギーを入れることができます。
一度に入れると吐く犬、猫がいるので、何回かにわけて必要な液体フードを
胃に送りたいのですが、通院が大変になります。
そこで当院では、飼い主さんに鼻から管を入れる練習を病院でいっしょに
してもらい、飼い主さんができるようになったら、1日3、4回、
自宅で鼻から管をいれ、液体フードを胃に送ってもらっています。
はじめは飼い主さんは、「鼻に管をいれるなんて、無理無理」と
みなさんおっしゃいますが、大事な犬、猫のため頑張ると覚悟を決められると
「ちょっとしたコツ」を教えるだけで、たいていの飼い主さんは
一人ででもできるようになられます。

D胃瘻(いろう)を造設する。左図のように内視鏡を使って胃と皮膚を管を通して、
胃の中に液体フードを入れる方法です。人と違い、内視鏡を使用するときに
全身麻酔が必要となります。ただでさえ食欲がない犬、猫に全身麻酔は
リスクが伴いますが、いったん管を設置してしまえば、
胃の中に液体フードを入れるのは簡単です。
このDの方法を考えるのは、口の中に癌ができたときです。口の中が痛くて
食べれない時は、延命が目的であればDはいい方法だと考えています。
私としては胃瘻をすることをあまり進めていませんが、飼い主さんの事情等
あるかと思いますので、希望があれば対処するようにしたいと考えております。
以前にあったのは、口の中に癌ができ、食欲が全くなくなったのですが、
その犬を一番大事にしていた娘さんが仕事で遠くにいるので、
娘さんが帰ってくるまではなんとか生きててほしいという希望が
その娘さんのお母さんからあり、その時は胃瘻の提案をしました。

末期的な状況で食欲がなくなったとき、@からDはいずれも、
根本的に治療をしているわけではなく延命になるかと思います。
年齢等で癌を摘出する手術等ができず、上記方法のいずれかを
選択せざるをえないケースに遭遇することもあるかもしれませんが、
そんな時はどこまでがんばるか、どの方法でいくか等、犬、猫の状況を
見極めつつ、相談しながら決定していければと思います。

(2013年3月21日)

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第37話 ダイエット不要

第36話 アロペシアX

第35話 避妊手術の傷

第34話 帝王切開は大変

第33話 動画で撮影

第32話 トキソプラズマ症

第31話 おうちで皮下注射

第30話 心臓病と呼吸数

第29話 犬ときのこ

第28話 抗生剤の連続投与

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第26話 猫の歯肉口内炎

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第23話 食欲全くなし

第22話 猫のかたタマ

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