血液検査で「この子はコレステロールや、中性脂肪が高いですよ」と伝えると、
「私といっしょだわ」とか、「犬、猫は飼い主に似るって本当ね」みたいな会話が
診察室で結構あります。
血液検査項目のTGが中性脂肪(Triglyceride、トリグリセリド)、
TChoがコレステロール(Total-Cholesterol、トータル(総)コレステロール)です。
人ではコレステロールが高いと、血管が詰まって…となりますが…。
以前は犬、猫ではコレステロールが原因で血管が詰まって…という話は
あまりなかったのですが、最近では犬、猫でも動脈硬化がけっこうあると
考えられるようになってきました。
高脂血症が見つかった場合、多くの場合、何らかの基礎疾患が隠れています。
どのような基礎疾患が隠れているかを考えることが非常に重要になります。
もし、コレステロールが高いとなったら、まずは食事との関係を疑います。
健康な犬、猫でも脂肪分の多い食事の後は高脂血症になることがあるため、
食後8時間以上あけて、再検査をします。
犬では甲状腺機能低下症を疑います。甲状腺機能低下症の犬の80%近くが
高脂血症を伴っていると言われています。
血液中の脂質の分解、取り込みの低下や胆汁へのコレステロールの分泌が
低下するためと考えられています。
皮膚、脱毛の状態、元気消失などから甲状腺機能低下症を疑うと、
次に甲状腺ホルモン(T4、fT4)の値や甲状腺を刺激するホルモン(TSH)の値を
測定し、甲状腺機能低下症と診断します。なお、甲状腺ホルモンを
飲み薬で補充すると高脂血症は早い段階で改善することが多いです。
糖尿病でも高脂血症が、特に高い中性脂肪がみられることがあります。
インスリンの作用が低下することで高TG血症にになります。
ただし、高い血糖値や、たくさん水を飲み、オシッコもいっぱいする症状などから、
診断は難しくありません。
副腎皮質機能亢進症でも75%以上の犬、猫で高脂血症がみられるようです。
副腎皮質機能亢進症はクッシング症候群とも呼ばれています。
高脂血症は副腎皮質から分泌されるコルチゾールによるものと考えられています。
クッシング症候群ではたくさん水を飲み、オシッコもいっぱいし、また、
皮膚症状や、お腹がぽてっとしてくる等の症状、他の血液検査項目、
エコー検査等を総合して診断します。
ネフローゼ症候群でも高脂血症が見られます。ネフローゼは尿中にたんぱく質が
漏れ出てしまう腎臓の病気です。血液中のたんぱく質が減るので、
肝臓でのたんぱく質の合成が増加し、それに伴い、コレステロールを運搬する
リポタンパクもたくさん作られるためと考えられています。
コレステロールが高いと腎臓の糸球体を硬化させ、さらに腎臓が悪くなるという
悪循環に陥ってしまいます。
胆汁がうっ滞しても高脂血症がみられます。胆汁の成分の1種である胆汁酸は
コレステロールから作られているため、胆汁がうっ滞すると
血中のコレステロールがあがります。エコー検査で胆のうの状態を確認します。
膵炎でも高脂血症がみられます。膵炎になると、何回も吐いたり、腹痛が生じます。
膵炎で高脂血症になるのか、高脂血症で膵炎になるのか
いろいろ説があるようです。
その他、肥満、リンパ腫、拡張型心筋症、パルボウイルス腸炎でも
高脂血症がおこることがあります。
そして難しいのが、ミニチュアシュナウザーと、シェルティーの原発性高脂血症です。
ビーグルやプードル、コッカーでもみられます。
原発性すなわち、遺伝的な異常が原因です。健康な若いシュナウザーの30%、
高齢のシュナウザーの75%が高脂血症と言われています。
これらの犬種では他に基礎疾患がないことを確認し、問題なければ、
原発性と診断します。治療が必要かどうかは、その犬の状況により決定します。
いろいろ高脂血症以外の項目を参照しても、高脂血症の原因が
わからないことも多々あります。低脂肪食にして、高脂血症が改善するか
みることもあります。また、人と同様にコレステロール、中性脂肪を下げる薬を
使用することもあります。
まとめると、血液検査で、高脂血症、コレステロールや中性脂肪が高いですと
指摘された場合、まずは食事の影響を否定し、
基礎疾患が隠れていないか確認します。
この子は太っているから高脂血症ですね とか、
シュナウザー、シェルティーだから高脂血症ですね と終わらせてしまうと、
基礎疾患を見落とす危険があります。また低脂肪食、高脂血症治療薬で
高脂血症が改善するとやせることもあります。
当院では健康診断でコレステロールをなるべく見るようにしています。
コレステロール1項目でもいろいろなことが考えられます。
高脂血症の場合、上記のことを考えながら基礎疾患を見落としの
ないようにしたいと考えています。
(2012年9月26日、2014年4月2日一部修正)